エロゲ好きの自由帳

エロゲ感想置き場。文章力は皆無

月姫 感想

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 同人時代の型月の名作。Fateは、まだ万人向けの要素があるが、こちらはそんな事もなく、きのこ臭の純度的な意味では圧倒的に月姫に部がある。

 年代、同人サークルでの制作等、現代の作品と比べると古臭いと言える作品だが、当時の同人界に大きな話題を読んだその質は現代でも色あせていない。

  

 

死について

 月姫は死というものへ、丁寧に向き合っている。主人公である志貴は、直死の魔眼に、七夜の血による人外への殺人衝動。こういった殺す事において、天才的な才能を主人公に与えておきながら、この作品はあくまでも死を重いものだと捉えている。

 終わっちまったことより先の楽しみにしてたほうがハッピーじゃない?

と志貴が語るこの思想こそが、この作品の死との向き合い方なのだと想う。

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 死んでしまったら終わりだ、終わってしまう。先の楽しみなんてものはない。色んなものを取りこぼしたとしても、みっともなくて生にしがみつく。

 一度死んで生を手放したからこそ、生の楽しさを彼は誰よりを実感する。

 死を経験し殺人の才能に優れた彼だからこそ死を理解し、それを嫌悪する。

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そういう意味では、Fateの主人公である士郎とは正反対、無駄を良しとし、あくまで自分中心の志貴と、人を助ける事を第一に、自身を省みない士郎。

 

 

 

 

 

 

アルクェイド

 センターヒロイン。その無邪気さは、生きる事の楽しさを知らない無知さの裏返し。死徒を狩る時はひたすら機能的というか、冷徹な印象すら受けるが、そこから離れれば、無邪気な子供の様。

 √ロックがかかってないだけあって、月姫の導入とも言うべきシナリオで、役割をこなすことしかしてこなかったアルクが、志貴との交流を通し、無駄とも言える生きる事の楽しさを学んでいく。

 意味のない言ってしまえば、無駄な行為の約束。でもその無駄がどうしようもなく愛おしくて、楽しい。

 無駄を知らなかった彼女が、笑顔でその約束をするシーンは何度見ても胸を締め付けられる。

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 生物としての成長、死徒を狩る機能としては堕落。人としての感情を育くめば育む程、真祖としての吸血衝動に悩まされる事になる。

 愛情と衝動その中で揺れ動く。好きだからこそ吸いたい、好きだからこそ吸いたくない。

 化け物と人との恋の結末。

 好きだから、吸わない

 

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 愛しているからこそ、対等な立場で有りたいからこそ、二人の関係は離別で終わる。

 約束は果たせなくても、隣に居れなくても、美しさを感じるその選択と言葉。

 

 打って変わって、GOODENDでは約束を果たして、二人で街へと繰り出す。離別がtrueである以上このENDはあり得たかもしれないもう一つの結末イフである。

 胸を締め付けられるtrueとは違う幸せな終わり。

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もちろん、何もかも解決した訳じゃない、先の結果は分からない。でもアルクが語るように約束を果たせたっていうイフは救いがあるような気になれる。

 こういう結末もあったかもしれないねって。

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 シエル√

 アルク√とは色々と対比な√。望まない不死性に、後悔しか生まない絶望的な過去。代行者としての冷酷さと強さ、そしてどうしても捨てきれない本質的な甘さが魅力なキャラ。

 機能的だったアルクは、殺害された事によるバグで感情が豊かになっていたが、シエルは、普通の少女だったがロアの覚醒により、今の性格に至る。

 彼女は本質は、確かに学園で見せていたような優しさではあるが、それと同様に代行者としての冷酷さも本物である。望まずに獲得した不死性と、ロアが引き起こした過去の惨状により、そうなってしまうのは仕方ない。

 

 不死性故の死への渇望は、志貴との対比だろうか。実際シエル√では志貴の死への考え方の描写が多い。

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 ここまで生に執着する志貴が、シエルが嘘だと断言する、普通の日常を自分の中でだけでも本当にするために、生を諦める。

 

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 また、シエルも同様にロアを完全に殺すという目的の為に他の感情をすべて押さえつけ、志貴を殺害しようとする。

 恨まれるのは当然だ。憎まれるのは当然だ。だって彼は何も悪くないのに、ただ運が悪かったと言ってしまえる様な理由で彼を殺そうとする。


 それなのに、彼は、恨み言1つ言わずありがとうなんて声をかけてくる。

 ここまで、やってようやく彼女は、理屈や正しさをかなぐり捨てて、自分にとって都合のいいともいえる選択肢を選べた。

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 自分のせいで、死なせてしまったたくさんの人間、その後悔を笑うかのように自分だけは決して死ねない体。そして未だに存在するその元凶。

 彼女がシエルを名乗る事になってから、何よりも優先しなければいけなかった行動を妥協する。

 理屈としては、ここで志貴ごとロアを消滅させるのが正しい。だが、それができなくなった。機械的に振る舞っていた彼女が見せた本質の人間性

 

 

 

秋葉√

 遠野家√の導入とも言うべき√。人ならざるものの混血で、四季よりも遠野の化け物としての血は薄いとされるが、質は良いらしく、能力、反転時の凶悪っぷりはヒロインらしくない。いや、ある意味型月ヒロインらしくはあるんだけど。

 兄への恋心と家族、元の名前を奪った罪悪感が入り混じり、志貴への想いはとんでもなく重たい。プライドが高く、本音を出すことは少ないが根は素直で真面目な正統派ツンなんとか。

 遠野家√においては、ロアは表に出てこず、四季が表面に出てきているので吸血鬼という設定はなりを潜め、四季の復讐、混血の反転衝動が中心になっている。

 

 秋葉は、自分の中の遠野の血を押さえつけるため、琥珀の血を吸っている。血に負け、反転すれば、大我と小我が入れ替わり、文字通りの人でなしになる。近いもので言えば、超自我とイドの関係だろうか。

 秋葉が反転を押さえつけるのは、もちろん人ならざるものに変わることへの嫌悪感もあるだろうが、それ以上に愛しい兄と同じでいたいという思いからだろう。

 

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 ただ、反転したくないなら志貴を生かすのをやめ、殺してしまえばいい。十全なら彼女は反転衝動を押さえつけるのに今のような労力を働く必要がない。

 だが、それだけは絶対にしない、彼女にとっての優先順位、いや彼女にとっての絶対条件は志貴が居ることなのだから。

 

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 どのヒロインも大概重たいが、秋葉は群を抜いている。偽物とはいえ、兄妹、文字通りに互いに命綱を握っている関係、深い愛情と互いの血の衝動故に傷つけ合う可能性。背徳感をこれでもかと詰め込んだ関係はとても美しい。

 

 秋葉√のEDの2つは、志貴が秋葉は殺せないという点では共通している。ノーマルでは、反転した秋葉を殺せず、世話をしていく終わり。trueでは自分の中の秋葉の能力を返して、秋葉の反転を治す終わり。

 どちらにしても、一貫しているのは秋葉を殺すことができないのということ。特にtrueでは死を恐れているにも関わらずそれを乗り越えて、自身を生かしているモノを殺している。彼にとっての秋葉の死は死ぬことをよりも恐ろしいことなのだろう。

 殺してくれと頼まれていても、殺してあげたほうが彼女にとっては救いだと言われても、理解っていても、志貴はその選択だけは取れない。

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 だからこそ、ノーマルENDでは歪んではいても秋葉の生を喜んでいるし、trueにおいても自分が死ぬ可能性が高くても秋葉を元に戻す選択肢を選んでいる。

 

 trueで、志貴は死んでおらず生きているが秋葉の元へは帰っていない。ビターエンドとも取れる展開だが、これでいいのだと思う。

 アルク√は言わば、もう二度と会えないであろう別離。対して秋葉√は近くに居なくても、いつかは会えるであろう再会の終わり。人間から怪物に堕ち人間に戻った√だからこそ、最後の人としての幸せがあるという実感を再会させずに書いたのかなと。

 

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翡翠

 無表情のようで表情豊かなメイド。月姫ヒロインの中では、最も人間らしい子。幼少期の琥珀が受けていた暴行と志貴の死をきっかけに今のような性格になるが、昔は明るい少女だった。この変化については、上記の様な理由もあるが、自分たちを引き取られていた役割を一人でこなしていた琥珀への贖罪的な面もある。2人は入れ替わっていると、作中で語られており、琥珀翡翠になっているので翡翠琥珀になっている。(性格面においてだが)。

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 遠野家の闇の深さの触りとも言うべき存在が翡翠で、彼女は琥珀が守っていたことで

無事ではあるが、それが原因で自身を閉ざすことになる。

 √中では四季と繫がって錯乱する志貴を相手に懸命に世話焼いている様子が、記憶残る。感応能力は持っているが、あくまで人間なためか志貴の殺人衝動も刺激されず、四季戦においても狙われることがないと、珍しく命を狙われない系ヒロイン。

 √においては、ドンドン壊れていく志貴の描写が記憶に残る。情緒不安定、身体が動かないことへのいらだち、逆恨み、文字通り壊れていく人間の様子を見させられることになる。

 そして四季を殺した後、これまでの黒幕が明かされる。

 

琥珀の復讐

 少し特殊な能力を持っただけの普通の人間。吸血鬼でも埋葬機関の代行者でも、混血混じりでもない、そんな人間が遠野家√における黒幕。

 彼女は遠野家に引き取られてから、人として扱われなかった。年齢が二桁に満たないうちから暴行ともいえる激しい性行為を受け、徹底的に感情を剥奪された。それ以外の仕事を与えられても結果は変わらず彼女は責め苦を受け続けた。

 そんな、毎日の中彼女は自衛の手段として壊れた。自分を人形だと思い込み、あらゆる痛みを感じないようにした。やるべきことを設定し、それを目的に動くようになった。

 そこに感情的な動機はない。彼女が行った行為は、許されないものかもしれないが、感情的には許されて然るべきモノであるし、それを望む感情も理解されるものだろう。

 だが、彼女にはそんなものは一切ない。あるのは、自分を受けた行為に対してやることは復讐が妥当だろうという、機械的な回答である。

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 彼女の復讐は恐ろしい程に順調に進んだ。翡翠ルートでは、自分と関わった遠野の血筋を全滅させていることからもわかる。

 それでも達成感で喜び訳でもなく、罪悪感で錯乱するわけでもなく、ただただ無表情な笑顔のままで、志貴に過程を語る。

 ただ秋葉に対しては情がきちんとあったらしく、戸惑うような発言も見受けられる。

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 秋葉√が遠野の血筋の闇とするなら、双子は、遠野血筋によって作られた闇というべきだろうか。

 

琥珀

 月姫における、完結編にしても最も異質な√。ここまでの裏側に加え、他のルートでは起こり得なかった結果が存在する。

 とにかく重い、琥珀の過去も、現在の人形の琥珀も、志貴と四季の関係も、秋葉の愛情も……。

 

志貴と四季

 このルートでは、初対面の人間として2人が出会う唯一の物語である。(翡翠√で分かるが四季は、志貴の風貌を琥珀に誤って教えられている。)

 名前も知らない、気の合う奴。お互いどうしようもない化け物と殺人鬼だが、不思議と話は弾む。(中身はあれだけど)

 一見すると、なんの意味もなさそうな展開だが、その実とんでもなく切なく痛い。見れば見るほど、あーこの2人は、反転とかそれに付随する歪んだ関係がなければやはりいい友人だったんだなと痛いほど思わされる。

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遠野秋葉

 ラスボス様。紅赤朱秋葉。

 独占欲の強すぎる愛情は、反転による大我と小我の優先順位の入れ替わりが原因。こうなると、本能のままに生きることになる。自分本位の、自分の欲求が第一の状態。普段、道徳的、理性的に押さえつけているのものが表に出てきている。

 志貴がほしい、それには琥珀が邪魔だから排除すればいい。志貴が自分のものになってくれない。それならもう壊してしまおう。

 周りに関係なく、自分の中で完結する結論。人というより動物の様なもの。

人間としては嫌悪すべき姿が、きっとどんなものより快楽的なのだろう。

我慢がいらない、周りを省みなくていい、ただ自分のやりたいことを思ったとおりにするだけ。

 彼女がラスボスなのは、琥珀の復讐の対象である、「遠野」であり、情が湧いている主人であるという琥珀に取って最も複雑な関係を持っていたからだろうか。

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 琥珀と秋葉

 互いに相手を殺す理由を持っていた同士ながら結局お互い相手を殺せない。

 目的を持たないと生きていけなかった琥珀。反転によって琥珀に殺意を向ける秋葉。

その殺意を抱かせた志貴への秋葉の想い。

 何か一つ違えば、無かったであろうお互いを傷つけ合う展開。苦しくて重くて、遠野家が彼女たちに押し付けた物を嫌でも実感させられる。

 遠野家に奪われた感情を取り戻すきっかけが、遠野兄妹というのは皮肉的というかなんというか。

 

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総評

 思わず、そうこういうのが読みたかったとなる作品。昔Fate空の境界を読んで夢中になった様にこの作品にもぐっと心を掴まれた。

 昨今はきのこ本人が丸々書いたものはドンドン読めなくなってきている。

月姫2やまほよ2部の発売は色々絶望的だが、ぜひとも出してほしい。